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食券機促進人間

ある飲食店のオーナーさんが、何かの記事でこんなことを言ってました。
「うちは食券機をやめました。たしかに会計漏れはなくなりますが、お客様の帰り際に『ありがとうございました』を言いそびれることが度々あったからです」
 

ここ数年、飲食店、とくに大手チェーン店は店員さんとのやり取りが少なくて済むような仕組みに変わりました。
それぞれのお店にそれぞれの役割や魅力があるわけだし、気軽だしいいんじゃないかと思っていますが、たまには人間味たっぷりのお店に行くのもドラマがあっておもしろいものです。
 

先日、お昼時に、なつかしい定食屋さんの前を通ったので久しぶりに立ち寄ってみました。
店に入る前に財布から千円札を1枚抜いて、胸ポケットへ。
これで今日は財布を店に忘れる心配がありません。ふふふ。
 

扉を横にガラガラと開け店に入ると、
縦に長いお店で、入口から見て右側に座敷の席、左側にテーブル席。
厨房は店の奥の右側にあります。
テーブル席に座りメニューを見てると、店員のおばちゃんが来ました。
(おばあちゃんって感じですが、ここでは「おばちゃん」と書かせていただきます)
 

「日替わりもまだあるよ。いろいろ入って500円。お得だよ」
「じゃあそれで」
おばちゃんは奥へ歩いていき、「日替わり一丁」と厨房に声をかけました。
とてもお元気です。
お客さんも多く店内はにぎやかでした。
10年前と何も変わってないのがうれしくなります。
 

しばらくして、おばちゃんがお盆を運んで来ました。
「はいはいお待たせ~。これは朝畑からとったばかりのナス。こっちは厚揚げね。主食の魚はサバちゃんです。栄養満点!どうぞ食べてくださいな」
 

ほかのお客さんの席では、
「これは大根と人参を酢で和えたもの。さっぱりしておいしいよ。はいどうぞ食べて食べて」
と声をかけておられます。
 

食べ終わった人は、自分のお盆を奥の厨房付近まで持っていくのがこの店の暗黙のルールのようです。
おばちゃんの負担を減らしてあげよう、と誰かがはじめたんでしょうね。
店を出ていくお客さんにも、おばちゃんは一人一人に声がけをしていました。
 

「おなかいっぱいになった?」
「また来てちょうだいね~」
「はい、おつり300万円。ガハハ」
 

みなさん、満足そうに帰っていきます。
お客様とお店の信頼関係を感じます。
私もみなさんにならい、お盆を厨房の方へ。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」とおばちゃんにお礼を伝えました。
「はいどうも。運んでくれてありがとね」とおばちゃん。
 
私もほかのお客さんと同様、満足しながら扉をガラガラと開け、お店の方を振り返りながら扉を閉めようとする時、おばちゃんがまだこっちの方を見てくれていた気がしたので、軽くえしゃくをしました。
ほかのお客さんのときのように何か元気な声が返ってくるかと思いきや、なんだかボーッとされています。
 

あれ?と思いながら店を出ました。
お昼時間のピークも過ぎて、さすがのおばちゃんも疲れが出られる時間帯かもしれません。
ずっと元気に声をだされていましたから。
 

気を取り直し、次のお客様のところへと運転しながら、さっきのお店の余韻に浸っていました。
まあしかし500円って安すぎるんじゃないかなあ。利益あるんだろうか。
店が繫盛してるのは、間違いなくあの名物おばちゃんの存在だろうな~。
そういえばおばちゃん最後、急に元気がなくなったように見えたけど……。
御年80歳近そうだしあまり無理なさらず、いつまでもお元気でいてほしいもんです。
そんな優しい気持ちになりながら、ボールペンを胸ポケットに刺したその時です。
手に何かが触れました。
頭が混乱しました。
1,000円札が入っていたからです。
 


??
!!!
 

あー!お金を払った記憶がない!
急いでUターンし、さっきの店に向かいました。
なるほど、そうか……。だからなのか。
謎が解けました。
おばちゃんが最後なんであんな顔になってたのか。
ボ―っとしてたのはおばちゃんではなく私だったのです。
おばちゃんは何を思いながら無銭飲食者を見送ったんだろう。
 
 

 

店につき、おばちゃんを探しました。
店の奥の方におられました。
 

「すみません!さっきお金払うの忘れてて」
「そう!あなた!わたしゃ気が付いてたよ。でもね、わたしゃ何も言いませんと。かわいそうに、よっぽどお金がないんやろうね~って思ってね」
「ほんとうに払うのを忘れてまして……」
「気の毒な人たちにはわたしゃ何も言わないで食べさせてあげると。けどね、バチが当たるよ。あなたは思い直して持ってきたから、バチは当ーたーらーない!!ガハハ」
「あ、あの……ほんとに忘れてたんです……」
何度もお詫びして、私は店を出ました。
 

今度あの店に行ったときに、
入口に食券機が置いてあったら、それは私のせいだと思っています。

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