「そんなこと気にしなくていいんじゃないんですか?」
と、2人の人から言ってもらったとします。
ひとりは『その道の初心者』、もうひとりは『その道を長く歩いてきた人』です。
言葉自体は同じでも、言われた人には伝わってくる深みがまったく違うのではないでしょうか。
それはきっと、『その道を長く歩いてきた人』の方が「臆病」を経由してからの「大丈夫」を言っているからです。
初心者ほどこわいもの知らずで、
むしろ、『その道を長く歩いてきた人』の方が臆病になってしまいます。
初心者には分からない「違い」が、『その道を長く歩いてきた人』にとっては、はっきりとした「違い」として見えてしまうから。
たとえば、
売れっ子イラストレーターは、
「あの文字のデザイン、もう少し丸くした方がよかったかな……」
と夜中までふとんの中で悩み、
こだわりのうどん職人は、季節や天候を見ながら、
「今日はゆで時間をいつもより30秒長くしておこう」
と考えます。
初心者や素人には、どっちでも同じに見えるんですけどね。
見る人が見るとそこには違いがあるんでしょう。
だからこそ、『その道を長く歩いてきた人』の方が臆病になってしまうことがあるわけです。
そんなことを思った20年以上前のシーンです。
まだカメラはフイルム時代のころ。(わたしは24歳くらい)
当時つとめていた会社の近くに、行きつけの写真屋さんがありました。
30歳くらいの男性の方がひとりでやっている小さな写真屋でした。
名前は中村さんと言いました。
フイルム現像を頻繁にその店に出していたため、中村さんとわたしは顔なじみの関係になっていました。
忙しかったのか写真を撮らない時期があり、数ヶ月ぶりにそのお店に行ったときのことです。
「お久しぶりです」と挨拶をして、フイルム現像を頼みました。
すると、会話の中で中村さんが心配そうにたずねてきます。
「うちの写真は大丈夫ですか?うちの出す色とかトーンが気に入らないから、別のお店に行かれたのかな、と思ってました」
へ? トーン?
そもそもわたしには、「写真の仕上がりは店によって違う」っていう発想すらなかったのです。
店によって違うのは、「安いのか」、「サービスがいいかどうか」くらいの認識でしたから、出来上がった写真の色やトーンが上手いのかどうかなんてチェックすらしたことありませんでした。
しかし、その道を長くこだわりながら歩いている中村さんにとっては、こまかい世界まで見えているがゆえに心配になられたんでしょう。
わたしにもこんなことがありました。
お客様の会社の天井裏経由でLANケーブルを引く工事を行うときのこと。
わたしが持ってきたケーブルの色と、すでに引いておられるケーブルの色が少し違うのです。
統一感がないからお客様はいやがられるかもしれない……。 Continue reading