「秋」を実感できる町、『うきは』。
10月から11月にかけて、うきは市辺りを通ると秋の景色に心がいやされます。
うきは市は柿が有名です。
『耳納山麓一帯は西日本随一の富有柿の産地』。
うきは市のホームページにはそう書いてありました。
たしかに、町へと延びる斜面が、柿の実と紅葉でオレンジ色でした。
午後の予定が比較的ゆっくりだった日のことです。
移動中の車の窓から、
雰囲気のある建物に柿がぶら下げてあるのが見え車を止めました。
いい感じの秋の写真が撮れそうな気がしたのです。
干し柿にカメラを向けていると、
少し離れたお店の入り口からおじさんが出てきました。
どうやらここのお店の方のようです。
「この柿、写真を撮らせてもらっていいですか?」
少し距離が遠かったこともあり、
お言葉があまり聞き取れませんでしたが、
ニコニコしてうなずいておられたので、
「いいよ」ってことだと分かりました。
(こころよくOKをくださってよかった…)
と思いながら、カメラを覗き込んでいました。
すると、おじさんがこっちに歩いてこられます。
「わたしも……カメラ……撮って……」
ところどころ聞こえなくて、
わたしは、
「え?おじさんも一緒に撮っていいんですか?」
と、聞き直しました。
「柿とわたしを一緒に撮っていいよ」と言われたんだと思い、
(これもこの店のサービスの一環なんだろうか……。おもしろいサービスだな……)
と思っていると、
「いやいや」
と手を顔の前で振りながらおじさんがいいました。
「わたしも一眼レフでカメラ撮ってるよ」
と言い直されて、体を反転させてすぐ入口の方に戻っていかれました。
わたしはその背中に向かって、
「あ、写真撮られるんですね!」
と言いながら、おじさんの姿にカメラを向けてシャッターを押しました。
間に合わなかったけど、照れくさそうに笑ってらっしゃるのが写ってました。
一眼レフっぽいカメラ(実際はミラーレス一眼ですが)を持って、
距離をかえ、絞りをかえ、あーでもないこーでもないと撮影している姿は、
おじさんには「同志」のように見えたのかもしれません。
わたしも同志ですよ、
と、そのことを伝えるためだけにこっちまで来てくださったんだろう。
おじさん、ぼくらはもう同志ですよ!
好意的な許可もいただいたこともあり、じっくりと撮らせてもらいました。
(F1.4のレンズはボケが大きいので、上手な人が撮ったように見えるので気に入ってます)
撮影を終えて車に戻ろうとすると、
さっきのおじさんがまたちょっと遠くから声をかけてくれました。
「そこの柿、もって帰っていいよ」
「え!? この柿もらっていいんですか?」
と、さっきまでカメラを向けていた干し柿を指さしました。
おじさんは、あわてたように顔の前で手を横にふり(今日2回目)、
「ちがうちがう。それじゃなくてはその向こう側に置いている柿の方」
と言われました。
「あ、これですね!」
わたしは、駐車場と畑の境目のところに置いてあった柿を見つけて指さしました。
「うんうん」
と笑顔でおじさんはうなずいています。
「ありがとうございます!おいしそうですね」
おじさんは、ニコニコして何かを言いながらお店の方に戻られました。
はっきりと聞き取れなかったけど、
「そんなんでよければ」とか、
「おいしいよ」とかだったんじゃないかなと勝手に解釈し、
お言葉にあまえていただいて帰りました。
写真を撮っていると、たまにこんな風にはじめて会った方との交流があったりします。
少し車を走らせ、お客様との約束の時間までもう少し時間があったので、
時間の調整のため公園の駐車場で車を止めました。
さっきの柿を手に取ってみます。
ちょっと痛んでいるところもあるけど枝についたままの新鮮な柿。
秋のプロに、秋をおすそ分けしていただいたって感じがします。
よし、1個いただこう。
水道を見つけきれいに洗い、
車に常備しているビクトリノックスの万能ナイフで皮をむきました。
うまそう~。
心の中でおじさんにお礼を言いながら一口かじりました。
(おじさん、ありが………)
今まで味わったことのない衝撃が口の中を走りました。
「こ、こ、これは……」
渋柿でした。
おじさん、もしかして最後に忠告してくれてたんじゃないかな……。
ちゃんと聞き直せばよかった……。
干しているには意味があるんですね。
よく考えればわかることです。
しばらく口の中のしびれたような苦味を味わいながら、
秋を満喫しました。