「ヒファア゜ア゛ーー!!!!!」
自分でも聞いたことのない叫び声が自分の口から飛び出していました。
のんきにまんじゅうをくわえながら、自宅の玄関から外へ出たときのことです。
ドアを開けて1歩踏み出したときに、足元、視界のすみっこで何か細長いカゲをとらえました。
もうこうやって文字にすることすら恐ろしい……。
本当は書きたくなんかない。
思い出したくもない。
そいつの名前を入力するだけで体が固まってしまいそうになる。
わたしがこの世で一番恐れている生き物、ヘビでした。
今回はとてもヘビーなお話になります。
遺伝子レベルで恐怖を感じる生き物っていませんか?
ほとんどの方が、ヘビ・クモ・ゴキブリ・カエルの4つの中にいると思うんです。
たかがヘビくらいで……、と思われた方は、自分の苦手な生き物に置き換えてみてください。
テキストに変換できない叫び声が出てしまったのもご理解いただけると思います。
わたしも叫びましたが、向こうも怖かったんでしょう。
1メートルくらいの体をまるでアニメのように大げさに上下させながら、一目散に逃げていきました。
その姿を見てさらに全身の力が抜けました。
リアルなホラー映画でした。
くるぶし辺りにやつのしっぽが触れた感触が残っていて、アキレス腱に力が入りません。
フラフラと家の中になんとか戻り、ソファに沈みこみました。
この町で40年近く暮らしているが、こんなことは一度もありませんでした。
(た、た、たたりかもしれない!)
そう思ってしまったのには理由があるのです。
実は3日前、田んぼ道を運転中、にょろにょろしたやつが急に飛び出してきてタイヤで踏んでしまったんです。
数メートル先で車をとめて振りましたが、地面にその姿はありませんでした。
(姿もなかったんだし、きっと大丈夫だ……忘れよう……)
なんども口にしながら車を走らせました。
しかしその夜、彼は夢に出てきました。
6匹くらい仲間を引き連れて。
思いっきりリアルな夢でした。
わたしは許されていない気がして、目をつむって布団をかぶりました。
わたしはそれからずっと怯えていたのです。
恐れが強いと逆にそれを引き寄せてしまう、
ということを読んだことがありますが、
まさにわたしの恐れが「玄関待ち伏せ作戦」という形となって現れたのかもしれない……。
(もし、今の時代が戦国時代だったら、自分は「腰抜けのヘタレ野郎」って笑われていたんだろうな……。
もし敵国のやつらがヘビ人間だったら、家で布団をかぶって震えているだけの男だったかもしれない……)
など、いろいろと考えていました。
いやいや。
と自分が自分に反論をしました。
たとえ時代が違っていても、時代に合わせて活躍できるように努力できる男だと、せめて自分だけでも思いたい。
なので、もしもヘビ人間時代に生まれたとしても苦手克服のためにがんばったはず。
たとえば「毎日ヘビの写真を2時間凝視する」という特訓をしたりとか。
(いや~考えただけでも気持ち悪い)
でもこのとき、わたしは体がフッと軽くなるのを感じました。
さっきまで怯えていた心が静まったような気がしました。
あれ?さっきまでとなにかが違う……。
不思議でした。
(なぜだろう。なにが起こったんだろう)
さっき想像の世界の中でヘビ人間を凝視したあとくらいから、なんかが変わったような気がする……。
そうか。
怯えていたものに目を向けたからだ。
恐れと向き合ったからだ。
怯えてふとんを被っていると、やつらは余計に力を増して覆いかぶさってくるのです。
恐れてるものから目を背けてばかりいるのではなく、
たまには向き合ってみる方が恐れは小さくなっていくのかもしれないですね。
それからは、ヘビの夢は見なくなりました。
ヘビと書くだけでも気持ち悪かったのに、だいぶ慣れました。
ヘビ。
へビ野郎。
ヘビーなヘビ。
ほら。
もう大丈夫です。
でも毎朝、玄関をおそるおそる開けていることは内緒にしておきたいです。
「腰抜けのヘタレ野郎」の姿になってますから……。