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桜餅の葉のひみつ

「葉っぱも食べなさい」

そう言われたのは、となりにいた同級生の友達。
となりで桜餅を食べていた小学5年のぼくはギクリとしました。
彼のお父さんが自分の息子にそう言ったのです。
友達の方を見ると、取りかけた葉っぱを桜餅に戻して、不満気に食べていました。
 
その場にはわたしの父もいましたが、そのとき父は何も言いませんでした。
(葉っぱも食べないと怒られる家があるんだ……きびしいなあ……うちが甘いのかな……)
と、手に桜餅を持ったまま考えていました。
 
それまでに、桜餅の葉っぱ、食べたことはあったんです。
でも、桜餅のおいしさを一瞬で台無しにしてしまうような理解不能な味がしました。
「桜餅は葉っぱ付きで食べた方がうまいよな。あんの甘さと葉っぱの塩味のハーモニーが最高だよ」
と、そんなセリフを吐く口の肥えた通好みの友達なんか、
小学生のわたしの周りには1人もいませんでしたから、
葉っぱを食べるのは大人だけだと思ってました。
 
(いつものように葉っぱ剥がして食べようかな……。
友達のお父さんが、よそん家の子供まで怒ることはないだろうし。
でも、ぼくが葉っぱを剥がして食べたら、
ぼくのお父さんはきっと[しつけの出来ない父親]と思われるに違いない。
それはなんか悔しいし、お父さんがかわいそう。
おっとつぁんの顔にどろを塗ってはいげねー。
よし、やっぱりここは葉っぱごと食べよう!
まかせとけ、父ちゃん!)
 
そう決意したわたしは、
いつもこうですけど、みたいに涼しい顔をしながら、
葉っぱをつけたままの桜餅にかじりつきました。
 
しょっぱい。
(やっぱ剥がして食べればよかった……)
 
しかたなく、残念な桜餅をちびちび食べたわけなんですが、
わたしの記憶の中には、このとき父が桜餅を食べてる姿はないんです。
なぜか、背中だけをおぼえています。
 
当時は、
(「葉っぱも食べなさい」なんて言われない、子供に理解のある家に生まれてよかった~)
って単純に思ってたけど、
今思えばなんで友達のお父さんはあんなにも強く「葉っぱも食べなさい」と言ったんだろうか。
 
桜の葉っぱには、とてつもない秘密でもあるのかもしれない。
 
ということで、桜餅について調べてみました。

桜餅の葉について

まず、東と西でつくりが違うらしい。
ぜんぜん知らないかった。
 


関東風は、クレープみたいに巻いてあるみたい。
 


わたしたち(福岡県民)が普段食べているのは、関西風です。
 
ある記事によれば、
関東では、約5割の人が葉っぱも一緒に食べるらしい。
そして、関西風ではなんと8割の人が葉っぱも一緒に食べるらしい。
 
みんな葉っぱ付きで食べるんですね!!
ほんとですか?
 
使われている桜の葉は「オオシマザクラ」という種類のもので、
塩漬けしたものが使われているそうです。
 
桜の葉を使う理由は、
香りをつける、
餅の乾燥を防ぐ、
抗菌作用があるので長持ちさせることができる、
の3つ。
 
桜餅のあの独特の香り、いいですよね~。
あの香りは、葉っぱに入っているクマリンという成分によるものらしいです。
クマリンには、抗酸化作用があるので、活性酸素による老化対策にもなるようです。
他にも、血液をサラサラにする働き、抗菌作用、ホルモンバランスを整える働きなどがあります。
 
(クマリンは、大量に摂ると肝機能に影響するおそれがあり、摂り過ぎには注意らしいですが、
桜餅に巻いてある葉っぱを食べたくらいでは、全く影響はないみたいです)
 
桜餅の葉は、こんなに優秀なのか。
ちょっとネットで調べただけでも、優秀さがわかりました。
 
わたしがもし、桜餅をつくる仕事をしていたとしたら、
「ぜひ葉っぱも食べてみてください」
と思ってるにちがいないです。
 
友達のお父さんが、葉っぱも食べなさいと言ったのも分かる気がしてきました。
 
大人になった今、わたしの口だってそれなりに成長をとげています。
あんの甘さと葉っぱの塩味のハーモニーを理解できる歳です。
8割の人が食べているという葉っぱ。
クマリンっていうなんだか可愛らしい栄養分も補給できるし、
葉っぱを剥がす理由はひとつもありません。
2023年、春。
桜餅を丸かじり。

 
しょっぱい。
(やっぱ剥がして食べればよかった……)
 
わたしは自分の口が小学生のまま成長していないことを改めて知りました。
しかしそれと引き換えに、桜餅の葉っぱにまつわるいくつかの個人的な秘密を解き明かすヒントを得ることになったのです。
 
わたしの父は、わたしと同様、
桜餅は「葉っぱを剥がして食べたい側」の大人だったはずです。
味覚は似ていたはずだし、
しかも、当時の父より今の私の方が年上です。
まちがいない。
 
そしてあの日。
4人の中でただ1人、わたしの父だけは葉っぱを剥がして食べたんです。
どこか違う方向いてたもんな。
背中の記憶しかないわけだ。
 
どうりで、「葉っぱも食べなさい」とわたしに言わないわけである。

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