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小さなWBC

とある小学校で、通信機器の工事の日。
 
作業の途中で脚立が必要になり、車まで取りに行くことに。
 
暑い…。
腕に当たる直射日光は痛みを感じるレベルです。
本日の気温38度。
ワシャワシャというセミの鳴き声。
(エアコンの効いた職員室に早く戻ろう)
そう思いながら、車の上から脚立をおろしていると、運動場から少年たちの声が聞こえてきました。
 
小学生の少年たちが3人で野球をやっています。
ピッチャーとバッターと守備。
 

 
広い運動場なのに、守備は1人。
転々と遠くまで転がったボールを追いかけて戻ってきた青いTシャツの少年は、ゼーゼーと息を切らしています。
 
「おい……シュン……おまえ……ちょっと……打たれすぎ……」
と、膝に両手をついてピッチャー少年に文句を言いました。
 
「打たれるってことはコントロールがいいってことぜ!」
ピッチャーのシュンは反論します。
 
青ティー少年はそれには何も答えず、ゼーゼー言ってます。
 
「そうだ、今からWBC大会をやろうぜ」
白い帽子をかぶったバッター少年が提案しました。
 
(ほほう。WBCがはじまるのか。どれどれ)
わたしは、車内に置いていた沸騰寸前の熱いペットボトルのお茶を飲みながら運動場の方をコッソリ見ていました。
 
「1番、センター、ヌートバー」
 
(なるほど、2023年版のオーダーね)
 
「に、変わりまして……」
 
(え、いきなり代打?1打席目なのに?)
 
「代打イチロー。イチロー」
 
(なんと!引退しているイチローを!
 キ、キミはドリームチームを作るつもりなのか、白帽くん)
 

 
さすがのイチロー、
アメリカのピッチャーから、初球をライト線へ大きな当たりを打ちました。
 
ボールを拾いに行った青ティー少年は、ヘェへェ言いながら戻ってきました。
 
打ったあと、バッターは走らないルールのようです。
 
ひとりだけ走りっぱなしの青ティー少年は、
「おい……シュン……おまえ……打たれ過ぎだって……さっきから……」
とピッチャーに拾ってきたボールを投げ返します。
 
「打たれるってことはコントロールがいいってことぜ。そうやろ?」
5分前のやりとりの再現。
しかし今回は、これに青ティー少年が反論します。
 
「おまえの球は、浮いとるっちゃん」と青ティ。
 
「はあ? しっかり押さえ効かせて投げよるぜ」とシュン。
 
小学生とは思えないほど、2人とも野球理論を知っています。
 
「リリースポイントが悪いとって! だけん球が浮いとるっちゃん」
 
「バカ言え。指先にきっちりかかっとるって。
そしてコントロールがいいけん打たれるとぜ」
そのポイントはどうしても譲らないシュン。
 
内輪揉めをはじめたアメリカ軍2人のやり取りは、白帽少年の声で中断しました。
 
「さー侍ジャパン、ノーアウト2塁で先制のチャンス!
ここでバッターは二刀流の大谷です」
 
気を取り直して、ピッチャーシュンは守備の青ティくんに言います。
「よーし、今度はおまえのところに打たせるけんな。
しっかり守ってくれよ」
 
「わかった。とにかくシュンの球は浮いとるけん気を付けろ」
 
 
入道雲が浮かぶ8月の空の下。
誰から強制されることもなく自らの意思で運動場で遊ぶ少年たち。
 
小さなWBCはこれからさらに盛り上がりそうですが、
暑さが限界に達したわたしは涼しい職員室に戻りました。
 
そういえば、わたしも昔、お盆に親戚が集まったときに、
「なんで大人は外に出らんと?外で遊ぼうよ」
と大人たちに文句言ってたなあ。
 
その言葉は、
ビールを飲みながら笑っている大人たちに軽く流されてしまい、
『あんなつまらない大人にならないようにしよう』
と思ったことを思い出しました。
 
あのときの少年は一体どこへ消えてしまったんだろうか。
 
15分後、運動場を見てみると、3人はまだWBCをやっていました。
「ここで、代打、村上です。村神様の登場です」
 
少年にも大人にも、それぞれの暑い夏はまだしばらく続きそうです。

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