「あれ、スマホがない」
コンビニの駐車場で気が付きました。
5分前、銀行のATMで作業をしたときは確かにあったので、そこに置き忘れてきたようです。
急いで戻りました。
見当たりません。
窓口にもスマホの忘れ物は届いてませんでした。
もうすぐ13:00。
お客様から電話がかかってくる予定もあるし、
携帯電話がないといろいろと支障がでます。
誰かがわざわざ警察に届けてくれたってことは……ないだろう……。
となると、誰かが持ち帰ったってことかな……。
これは困った。
「ハネえも〜〜ん!たすけてよ~」
「また忘れ物したのかい、ほんとに君はしょうがない奴だな〜。
(※イメージ図)
ジャーン。『探す』アプリ〜!
このアプリを使えば、失くしたスマホの場所を確認できるんだ」
「ありがとう、ハネえもん」
車の中にもう1台、会社名義のスマホがあるので、
それでひみつ道具「探す」アプリを立ち上げました。
いました!南へ移動してます!
(赤い矢印の方が連れ去られたスマホ。青い矢印が今いる場所です)
(場所が特定されないように地図を一部加工しています)
急いで車を発進させ、連れ去られたスマホの方へ向かいました。
目的は分かりませんが、誰かが私のスマホを持ち運んでいるのは間違いありません。
3分ほど車で移動したあたりで相手の動きが止まりました。
ここからは徒歩の方がよさそうです。
コインパーキングに車をとめました。
「ぜったい救い出してやるからな」
このときの私は、
悪党に仔猫を盗まれた飼い主の気分でした。
私の作戦はこうです。
『探す』アプリの地図を見ながら、できる限り目的のスマホに近づく。
そして、手持ちのスマホから「サウンドを再生」のボタンを押す。
連れ去られたスマホから音が鳴り響く。
相手に「それ私のスマホです」と言って返してもらう。
『探す』アプリの地図を見る限りでは、目の前のアパートの中に私のスマホが表示されています。
6部屋ありました。
玄関にはロック付きのインターホンが付いていて、
勝手に中には入れないタイプの建物です。
目的のスマホに近づけない。
これじゃ「サウンド再生」作戦は使えない……。
何かいい方法はないだろうか……。
警察に電話して一緒に部屋に入って……くれるわけないし……。
どうしようか……と考えながら画面を見てみると、
指し示されていたスマホの位置がパッと動きました。
GPSの精度は、完全に正確じゃないのでこうやって動くことがあるようです。
県道を渡ったところを指し示していました。
私も地図を見ながら、県道を渡ります。
ここあたりか……。
目の前の古いアパートか、もしくは隣の一軒家か……。
10分ほど『探す』アプリの画面を見ていましたが、
私の奪われたスマホの場所に変化はありません。
今しかない。勝負をかけよう。
ドキドキしながら、「サウンドを再生」のボタンを押しました。
聞こえない……。
やはり場所がズレてるんだろうか……。
車の通りが多い道沿いなので、音がかき消されてる可能性もあります。
聞こえてくれ……!
さらに耳をすませました。
リンリンリリン
リンリンリリン
聞こえた!!!
通常とは違う、緊急めいた甲高い音。
音は次第に大きくなる仕様のようで、ますます音が聞こえてきました。
音のする方へ歩いていくと、
「あった!!」
道路沿いの小料理屋さんの前に止めてあった自転車のカゴの中で、けたたましい音でリンリンリリンと叫んでました。
よかった……、
とスマホを握りしめたと同時に、
小料理屋の引き戸が開いておばちゃんが2人、顔を出しました。
「なんの音?」と右のおばちゃん。
私は尋ねました。
「あのー、これ私のなんですが、この自転車のカゴに入ってまして」
「は?なんにも知らないわよ」と右のおばちゃん。
明らかにしらばっくれてるような気がしてなりません。
もう1回聞いてみました。
「この携帯電話、駅前の銀行に置き忘れたんですけど、なんでこの自転車のカゴにあるんでしょうか?」
「誰か入れたんじゃない?よかったじゃない見つかって」と左のおばちゃん。
何かおかしい。
話を終わらせようとするのが早すぎる。
私はスマホが戻ってくれさえすればよかったし、
本当に無関係だったのなら申し訳ないので、
「見つかってよかったです、ありがとうございました」
と言ってコインパーキングの方へ歩いていきました。
ちょっと歩いたところで振り返ってみると、
左のおばちゃんが扉から半分顔を出して、こちらをジーっと見ています。
目が合うとサッと扉が閉まりました。
なにはともあれ、見つかって本当によかった。
建物の中に持ち込まれていたら、もっと苦戦していたことでしょう。
四次元ポケットのひみつ道具を使ったみたいで、ちょっと楽しい経験をさせてもらいました。
「こんな面白い体験ができるなら、またスマホ置き忘れなきゃね、ハネえもん」
「キミー!ボクの道具をあてにするなといつも言ってるじゃないか。最後くらい、このようなことは二度とないようにと反省して締めくくったらどうなんだい、ほんとに君ってヤツは…ブツブツ」